「親に多額の借金があったから、急いで家庭裁判所で相続放棄の手続きをしてきた!」 「無事に受理されたし、これで借金から逃れられて一件落着。もう安心だ」
もしあなたが今、このようにホッと胸をなでおろしているとしたら……ちょっと待ってください。実は、その「自分だけ放棄して終わり」という行動が、顔も合わせない親戚たちを巻き込む、とんでもない修羅場の引き金になるかもしれないのです。
この記事では、一般の人が陥りやすい「相続放棄による借金のスライド(ドミノ倒し)」という恐ろしい盲点と、親族間のトラブルを防ぐために絶対にやるべきことについて解説します。
1. 最大の勘違い!相続放棄をしても「借金は消滅しない」
相続放棄に関して、多くの人が決定的な勘違いをしています。それは「自分が相続放棄をすれば、その借金自体がチャラ(消滅)になる」という思い込みです。
結論から言うと、あなたが相続放棄をしても借金は消えません。 相続放棄とは、「私という個人は、この遺産(借金含む)を受け継ぐ権利を手放しますよ」という宣言に過ぎません。貸金業者や銀行などの債権者からすれば、「あなたが払わないなら、法律で決められた『次の人』に請求するだけ」なのです。
つまり、あなたが放棄した借金のバトンは、自動的に次の順位の親族へと強制パスされてしまうのです。
2. 借金は誰にスライドする?「相続人の順位」のルール
では、あなたが放棄した借金は、一体誰のところへ向かうのでしょうか?民法で定められた「法定相続人の順位」に沿って、借金はドミノ倒しのように次々とスライドしていきます。
- 第1順位:子ども(あなた)
- まず、亡くなった方の子どもであるあなたが相続放棄をします。すると、相続権は次の順位へ移ります。
- 第2順位:父母・祖父母(直系尊属)
- もし亡くなった方の親(あなたから見て祖父母)が健在であれば、借金の請求はご高齢の祖父母へ向かいます。すでに他界している場合は、さらに次の順位へ移ります。
- 第3順位:兄弟姉妹
- ここが最もトラブルになりやすいポイントです。子どもも親もいない(または全員放棄した)場合、亡くなった方の兄弟姉妹(あなたから見ておじ・おば)に全額の借金がのしかかります。
- さらにその先:甥(おい)・姪(めい)
- もし、第3順位の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子どもである「甥・姪(あなたから見ていとこ)」にまで借金が引き継がれてしまいます。
3. 突然の督促状!何も知らない親戚との修羅場
想像してみてください。 何年も疎遠になっていた叔父さんや、顔もよく覚えていない従兄弟(いとこ)のもとに、ある日突然、貸金業者から「あなたの兄(または叔父)が亡くなりました。つきましては、借金500万円を一括で返済してください」という恐ろしい督促状が届くのです。
彼らはパニックになり、慌てて状況を調べます。そして、「亡くなった人の子ども(あなた)が、自分たちに何の連絡もなしに、自分だけさっさと相続放棄をして逃げていた」という事実を知ることになります。
「なんで一言、教えてくれなかったんだ!」 「お前が黙っていたせいで、こっちに借金が回ってきたじゃないか!」
こうして、激怒した親族からの電話が鳴り響き、取り返しのつかない骨肉の争いが勃発してしまうのです。
4. 親戚の「3ヶ月の期限」を奪わないために
相続放棄には「自分が相続人になったことを知った日から3ヶ月以内」という厳格な期限があります。
あなたが相続放棄をしたことで、突然相続人になってしまった親戚たちも、事実を知った日から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができます。 しかし、あなたが黙っていたせいで、親戚が「督促状が来て初めて事実を知る」という最悪のタイミングになってしまうと、証拠集めや手続きの準備に慌てふためくことになり、期限ギリギリの多大な精神的ストレスを与えることになります。
5. 借金のドミノ倒しを防ぐ!絶対にやるべき「事前連絡(根回し)」
このような悲惨なトラブルを防ぐための解決策は、非常にシンプルです。 自分が相続放棄をすると決めたら、あるいは手続きが完了したら、必ず「次の順位の相続人」へ連絡(根回し)をすることです。
電話でも手紙でも構いません。 「実は父に多額の借金があり、私は相続放棄の手続きをしました。法律上、次は叔父さん(叔母さん)に相続権が移り、借金の請求がいく可能性があります。申し訳ありませんが、叔父さんたちも早めに相続放棄の手続きをお願いします」
このたった一言の連絡があるかないかで、親戚の対応は180度変わります。事前に知っていれば、親戚も落ち着いて家庭裁判所へ行き、連鎖的に相続放棄をして(ドミノを安全に倒しきって)借金問題を完全に終わらせることができるのです。
6. まとめ:相続放棄は「自分だけ」の問題ではない
相続放棄は、借金から身を守るための正当で強力な手続きです。しかし、法律の仕組み上、自分一人だけの手続きでは完結せず、血の繋がった親族を巻き込む性質を持っています。
「面倒だから」「気まずいから」「もう関わりたくないから」と連絡を怠ると、後から数倍になって自分にクレームとして返ってきます。
もし、借金が多額で親戚が多数おり、「誰に連絡していいか分からない」「自分で連絡するのはどうしても精神的に負担だ」という場合は、弁護士や司法書士に依頼しましょう。専門家から「今後の手続きのご案内」として親族へ通知文を送ってもらうことも可能です。
相続放棄をするなら、「立つ鳥跡を濁さず」。必ず次の人へバトン(連絡)を渡すことを忘れないでください。
